我が家には居候が一人……いや、一人という表現は正しくないか。かといって、一匹と言うのも変だ。まあ、とりあえず彼女、と言おう。ともかく、我が家には居候が居る。ただの居候ではなく、なんと妖怪の。  元々はでかい犬が家の前で倒れていたから、ちょいと看病して元の飼い主でも探そうかと思っていたのだが、なんとそれが犬ではなく狐の妖怪というから驚きだ。しかも人型になるし。しかも話せるし。話を聞いたら女子学生だと言うし。二重三重に驚きだ。  ……で、ちょいと保護したらそのまま流れで居着く事になり。まあ外見は耳と尻尾の生えた可愛らしい少女だし、そのまま居候させ続けて早一年。食費は単純に倍になったが、たまに退魔師のような仕事を受けては金を持ってくるので、±はゼロ。一人暮らしの寂しい身で、家に帰れば美少女が居るのを考えれば、むしろプラス。  今日も今日とて、家の戸を開く。 「あ、ユーザーおふぁえひ(おかえり)」  小さな鼠を咥えた美少女。あざみが、挨拶をしてくれる。  捕食するならせめて、人型じゃなく狐の姿でしてくれまいか。少女が鼠を咥えているのを見るのは、いくら美人でも正直キツイ。しかも、まだ生きているし。キィキィと鳴いて、逃れようと暴れているし。 「ひょっと待っへへ(ちょっと待ってて)。ふぐかたふける(すぐ片付ける)」  尻尾をつまんで持ち上げ、大きく開いた口の上に鼠が。そして指を放すと、鼠が口の中へと消えた。ギュッ、という鼠の断末魔が、あざみの口の中から聞こえ、その後バギリ、ゴキ、と骨を砕くような重い音が聞こえ……。 「んんぐ……なかなか活きが良い鼠だったよ」  飲み込んだ。せめて狐になって食べてはくれまいか。美少女が鼠を踊り食いするところなど、見ていて気持ちのいいものではない。美少女に限ったことでもないが。 「人間の手は便利なんだよ。物をしっかり持てるし。リーチも長いし」  思考を読まれたかのような発言だが、いつもの事だ。一年も一緒に居れば互いに相手の考えてる事もわかるようになる。恋人とは言わないが、気の知れた友人程度には仲が良いのだし。だから、私の言いたいこともわかってくれるだろう。 「わかった、わかったよ。そんな顔しないで。次からはちゃんと狐の姿で食べるから」  結構。では食事の支度をしよう。 「今日は何?」 「……」 「肉じゃが?」  正解だ、と首肯して、材料をぶら下げてキッチンへ向かう。鼠よりは美味しい物を作らねばな。